ドメイン名と商標権との抵触問題について
グローバルメディアオンライン株式会社 橘 弘一

最初に

ドメイン名を取った。レンタルサーバも借りた。メールアドレスも設定した。さあ、これからだ、というときに、もうひとつ大事なことがあることを、皆さんはご存知だろうか。

ご承知のように、ドメイン名は、それが誰かに先に登録されていない限り、好みの文字列で登録することができる。ドメイン名を事業に利用する人にとっては、自社の目印になる大変重要な指標である。だからきっと、何時間も何日も悩んだ末に、何十回も空き状況を検索した末に、ドメイン名を登録することが多いだろう。人によっては、先登録者に対価を払ってドメイン名を譲り受けるような人もいるだろう。

しかし、冒頭でも述べたように、ドメイン名は、インターネットという仮想空間において、人があなたのお店に辿り着くための、おそらく唯一の目印である。したがって、どのようなドメイン名を選択するかは、インターネットマーケッティングの第一段階において最も重要な事項であると言えよう。だからこそ、たかが文字列の選択に長い時間を費やしたり、高額な対価を支払ってでも、そのお気に入りの文字列、即ちドメイン名を取得することには、価値があると思うのである。

商標権との抵触

前置きが長くなったが、冒頭の「もうひとつ大事なこと」というのは、いわゆる「ドメイン名と商標権との抵触問題」のことである。

ドメイン名は、それが悩みぬいた末に選択したものであっても、高額な対価を払って譲り受けたものであっても、本質はただの文字列に過ぎない。ところで、文字列と言えば「商標」のことも考えないわけにはいかない(以下、本稿では「商標」を特に文字商標に限定して説明する)。商標とは、簡単に言ってしまうと、商品やサービスの目印となる名前のことである。例えば、当社のドメイン名登録サービス「お名前.com」は、「ドメイン名登録代行」というサービスについての商標である。特許庁に登録されているので登録商標ともいい、当社は「お名前.com」の商標権を所有していることになる。

商標権は強大な独占排他権である。例えば、日本国内で第三者が当社に無断でこの商標を使用していることを当社が発見したとする。当社は、商標権に基づき、その無断使用を差し止めることができるほか(差止請求権)、損害賠償の請求(損害賠償請求権)や謝罪広告の請求(信用回復措置請求権)などもできる。

このように強大な権利である商標権だが、商標も、本質的にはドメイン名と同じで、文字列の選択物に過ぎないのである。そして、ドメイン登録者と、そのドメインと同じ文字列の商標権を有する商標権者とは、それぞれ別人となりうるのである。とすれば、商標権者は「そのドメイン名を使うことは、私の商標権を侵害する行為だ」と主張し、ドメイン登録者は「ドメイン名は先に登録した者の勝ち、そもそもドメイン名を商標的に使わなければ権利侵害にはならないのだから、筋違いだ」と主張する。この点において、ドメイン名と商標権とは、実に、抵触するのである。

実際の例

実際の例を見てみよう。2004年11月18日に、日本知的財産仲裁センターが出した裁定例である。あるスイス人が「ermenegildozegna.jp」というドメイン名を登録した。しかしながら、このドメイン名の文字列は、「.jp」を除く「ermenegildozegna」の部分が、男性諸氏なら一着は購入してみたいだろうイタリア紳士服「エルメネジルド ゼニア」の著名商標「Ermenegildo Zegna」と同一だったのである。そこでかのゼニアは、ブランド管理会社を通じて、そのスイス人登録者を相手取り、「.jp」ドメインの紛争処理を管轄する日本知的財産仲裁センター(http://www.ip-adr.gr.jp/)に、ドメイン名紛争処理の申し立てをした。

その結果(裁定)は、「当該ドメイン名をその登録者(スイス人)から、申立人(ゼニア管理会社)に移転せよ」という内容であった。詳細は、日本知的財産仲裁センターのホームページにて開示されているので、閲覧されたい(http://www.ip-adr.gr.jp/jp_adr/saitei/jp2004-0003.html)。

事業リスク

さて、この登録者(スイス人)が仮にあなたであったらどうであろうか。あなたはお気に入りのドメイン名で既に事業を開始していて、ホームページから多数の注文を受けている。経営が軌道に乗ったころ、突然、ドメイン紛争処理申立書の副本が送達され、答弁書の提出を求められたら・・・。当然、弁理士や弁護士に対応を依頼すれば相応の費用がかかる。かといって答弁書を出さないまま放っておくと、移転命令が出されてしまう可能性が高い。そうすると、ホームページが停止してしまうから、苦労して集めた顧客を一瞬にして失うことになるのである。

また、平成13年12月25日から、改正不正競争防止法が施行されている。具体的には、同法第2条第1項第12号に、所定の目的で他人の商標等と同一類似のドメイン名を取得したときは、差止請求や損害賠償請求の対象となり、訴訟に巻き込まれてしまうかもしれないのである。

リスクヘッヂ

しかしながら、このページを読まれた方は、何も心配する必要はない。リスクヘッヂをする方法が存在するからである。具体的には、

(1)ドメイン名を決めるとき
 a.できるだけ、自分が所有している登録商標と同一類似のドメイン名を登録すること。
 b.自分の氏名、会社名、商品名(自分が登録商標を有している名称ならベスト)など、そのドメイン名を自分が登録するに足りる根拠を説明できるような文字列のドメイン名を登録すること。
 c.他人の有名な商品名やサービス名とよく似た文字列(一部に含むものも)のドメイン名を登録することは、最初から避けること。心配なときは、特許庁のホームページで、無料で先願商標の検索をすることができるので、是非試して頂きたい(http://www1.ipdl.ncipi.go.jp/syutsugan/TM_AREA_A.cgi?0&1108363410383)。

(2)ドメイン名が決まったら
a.信頼できるドメイン登録事業者(レジストラ)で登録すること。具体的には、「ICANN認定」と公称しているレジストラ、及びその代理店を利用すること。ICANNとは、ドメイン名やIPアドレスを管理するアメリカで設立された非営利団体で、レジストラを認定する権限がある。したがって、レジストラは一定の条件をクリアした信頼できる事業者である。単に登録料金が安いだけの、ICANNが認定していない事業者でドメイン名を登録した場合は、その事業者が倒産したときなど、せっかく登録したドメイン名が突然停止になったり、他人に取得されたり、などのトラブルに巻き込まれることが散見されるので、注意されたい。
 b.そのドメイン名を登録するときに、類似範囲のドメイン名も一緒に登録してしまうこと。例えば、「onamae.com」というドメイン名を登録するときは、「e-onamae.com」(先頭にe-を付加したもの)、「onamaeweb.com」(後ろにwebを付加したもの)、「oname.com」(タイプミスで打ってしまいそうなもの)、及びこれらの識別子をそれぞれ「.net」「.jp」「.tv」「.info」「.biz」などに代えたものも、一緒に登録してしまうとよい。第三者からの商標権行使の防御には有効でないかもしれないが、マーケッティング政策の一環としては好ましい。


おわりに

本来、ドメイン名は、何の独占権もない、一番最初に登録した人だけが使用を許される、ただの「使用権」に過ぎない。しかしながら、「リスクヘッヂ」の項で述べたように、正当な理由があって登録したドメイン名であれば、独占排他権たる商標権に対しても十分防御することができる。

だからといって、素人判断では危ないと思いつつ進めることは、気持ちの悪いものである。ドメイン名の登録をきっかけとして、商標権や不正競争について多少でも勉強してみることは、事業展開上有益なことである。専門的な相談については、例えば以下のような団体に相談されてみることをお勧めする。
日本弁理士会
http://www.jpaa.or.jp/

日本弁護士連合会
http://www.nichibenren.or.jp/

日本知的財産仲裁センター
http://www.ip-adr.gr.jp/